愛について
壁に二つの影が映っている
子と母の二つの影が映っている
二人は自転車をこいで 今
家へ帰るところ
子は母に話しながら
母は子にうなずきながら
子に父はいなく 母に夫はいない
父も夫もいない夜道を
二人はゴムまりの
ようにはずんでいく
ぼくには愛が二つの
ゴムまりになったように見える
父のいない子は
愛について考えつづける
夫のいない母も
愛について考えつづける
愛について考えることで
二人は結ばれている
道ばたである日
星のように遠いはずの男とすれ違う
愛のことを考えながら
子と母と 男は道端ですれ違う
星のように遠い場所から
男は子と母に電話をかける
愛のことを考えながら
子と母は生きていく
愛のことを考えながら
男もまた生きていく
遠く離れた場所にいて
どちらも愛について考えている
つかまえた と
壁に映った子の影が言う
つかまえた と
壁に映った母の影が言う
子と母は自転車をこいで
家へ帰って行く
つかまえた とつぶやく二つの影を
道ばたの壁の上に残して
愛のことを考えながら
子と母は生きていく
愛のことを考えながら
男もまた生きていく
遠く離れた場所にいて
どちらも愛について考えている