吾君想う故に吾在り生き霊となりて
宝野アリカ
瞼を抉ろうと
見えるのは同じもの
まっすぐ立ってますか
現し世の その わたし
眠るあなたをまた
見下ろしてるの
月を背に影も曳かず
たゆたう幻のように
腕もなく足もなく
なお指もなく
それでもわたし
あなたに触れているでしょ
全身全霊
在るのが恨みなら
爪も毒 染めるのに
左の胸の下
溜まる愛 その血だけ
消えた恋を
捉えていられるほど
記憶は意味を持たない
人が生きる場所は何処
今はここでも行方は
もうどこにもなく
こうしてわたし
あなたのそばを巡って
流水落下
月を背に影も曳かず
たゆたう幻のように
涙もなく熱もなく
なお息もなく
それでもわたし
あなたに触れているのよ
全身全霊