今際の死神
椎名林檎
さあ悲しみの亡者は
湿(しめ)やかに啜り泣き
ご覧喜びの亡者が
逆さまにほころぶぞ
人生はいつも一人きり
分(わか)ち合へないの
一世一代の恋のお相手も
行違つたまゝ
さあ憎しみの亡者が
苟且(かりそめ)に
摩耶化(まやか)して
ご覧愛(いと)しみの亡者は
永久(とこしへ)に騙されるぞ
人生はいつも一度きり
取り返せないの
最初が最期どんな刻も
行当りばつたり
ぶつつけ本番の大博打、
伸(の)るか反(そ)るか
人生はいつも揺らいでゐる
不確かな炎
燃え尽きてしまふぞ、
消えてしまふぞ
愛した貴方は誰だつけ
思ひ出せないの
縋つた袂は確かに
かう憶えてゐるのに
さあ何も彼もがいま
有耶無耶に闇の中