なまえ

片平里菜

覚えたての 鏡の文字で
一生懸命書いた手紙を
いつも 喜んで ほめてくれた
大事にしまっておいてくれてた
時々 母は泣いてて 父は怒ってた
聞きたくなくて兄はテレビを見てた
ただ皆がいればうれしかった
あの団地は今もあるのかな
大人になればいずれ気付く
うっとうしいくらいの愛を
歩くことを 覚えた日から
もうひとりの人になる
母にもらった この名前を
いつか綺麗に咲かせたい
父から 受け継いだ名前を
いつか立派に旅立ちたい
古里に咲く菜の花
5月になると黄色い花
負けず嫌いなくせに
泣き虫で走り回って よく転んだ
補助輪はまだ外せなくて
追いかけても 追いつかない
お下がりは少しはずかしい
クラスでひとり白いリコーダー

大人になれば忘れていく
与えても 与えられた愛を
歩くことを 覚えた あとも
ひとりでは 生きれない
ねぇ 出て行かないで
玄関先でしがみついた
争うのは 見たくないけど
はなればなれは もっと嫌だよ
補助輪はもう外れたから
もっと遠くへ行けるんだ
お下がりだけど うれしいよ
マウンテンバイクは速いから
母にもらった この名前を
いつか綺麗に咲かせたい
父から 受け継いだ名前を
いつか立派に旅立ちたい

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