菩提樹の家
鈴木慶一
コートを脱いでと誰か囁く
この家は菩提樹の木陰の中
月が出る空には沈む太陽
この夜に飲むものは
ミントジュレップスだけ
枯れた木に菜種油を
染み込ませここまで
麗らを上って来たら
ワルツが流れて
この世の悲しみすべて
大地の下で生きてる
シャツを脱いだら誰か手を取る
この部屋で眠るように呟かれて
手には過去と未来の言葉あったけど
揮発して小指から薄荷が匂う
目を閉じて指を噛んだら
窓辺から自分の
幼い声が聞こえた
ワルツが始まる
この世のすべての時が
この部屋の中さすらう
私の中でまどろむ
ワルツが終わると
大地の下の悲しみ
彼等とともに生きてく
私の中に溢れる