時のないホテル
Yumi Matsutoya
ゆうべロビーのソファで出会い
愛し合った紳士は
朝焼け前に姿を消した
東側のタバコの吸いがら
電話のわきのメモはイスラエルの文字
さっきお昼のカフェで話し
ろう下で見たレディは
かつらの色がガラリとちがう
こっそり開くパフにしこんだアンテナ
口紅から発信機の音
彼らの写真は新聞を飾る
蜂の巣になり広場に死す
堅いニュースはすぐに忘れて
ゴシップだけが残る
回転ドアを少しまわせば
外の空気が流れ込むけどあわてて
とめに来るよ 制服着たボーイが
世界のあちこち目には映らない
激しい河がうず巻いてる
ここは置き去りの時のないホテル
20世紀を楽しむ場所
ひげを抜かれたお客はみんな
けっしてここを出てはいけない けっして
出てはいけない 出てはいけない
出てはいけない 出ては